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災害時要援護者研究会(第7回) 会議記録


平成20年12月11日(木) 18:30〜20:30
県立保健福祉大学 A449(中講義室8) 参加者:24名

1、はじめに

(1)梅田ボランティアセンター所長あいさつ

 みなさんこんばんは。恒例ですが挨拶をします。今回は聴覚障害の方から話をしていただけます。多くのことを学び、この成果を横須賀の活動に活かすようそして、全国へ広げていくようにしていければと思います。

2、聴覚障害のある方からの事例報告

  〜聴覚障害によることで災害時に自身が感じること〜

1)菅原さんからの事例報告

■自己紹介

 横須賀中途失聴者・難聴者の会「こだま」の菅原です。私の声の大きさは大丈夫ですか?自分の声の大きさがわかりません。この研究会で色々な話を聞く機会ができてとても勉強になっています。お互いに理解をしたいという、共通意識を持つことが災害時にはとても大切なことだと気がつきました。

 第5回の国際交流協会の方の話にありました外国人とのコミュニケーションの問題は、聴覚障害者の場合と同じです。

 また、第4回の知的障害者支援ネットワークの方の話では、障害者の特性を知るというのがありました。それぞれの障害を理解をすることが大事だと思いました。特に障害については先入観にとらわれないで、それぞれの障害を正しく認識しているのか、それは障害当事者としては心配なことです。

 中途失聴者や難聴者に対しても正しく知ってほしいので、そこから話を進めたいと思います。

■中途失聴とは

 中途失聴とは何か分かりますか?人生の途中で病気、事故や加歳、又なんらかの原因で聞こえなくなった人のことです。きこえのしくみですが、外耳から入り、中耳、内耳、聴神経に伝わって脳で聞こえたと感じますが、難聴というのは、外耳から入った音が聞こえたと感じるまでの過程で、支障が起き、音がよく聞こえない状態のことです。

 難聴にもいくつか種類があり、外耳または中耳の音が伝わる部分、この部分は伝音系といいます。この部分に支障があると伝音難聴といいます。中耳から奥の音を感じる部分(感音系)の働きが悪くなって起こる難聴を感音難聴といいます。伝音難聴と感音難聴が混ざっている場合を混合難聴といいます。

 難聴者の聞こえについて、伝音難聴で代表的なのは中耳炎や外耳、中耳の形成不全です。手術などで効果があります。音を大きくして聞く機能を持つ補聴器はとても効果があります。

 感音難聴は音を感覚として捉える部分の働きが悪くなるので、聴細胞・神経・脳の損傷の受け方で難聴の程度がさまざまです。聞くことができる一番小さい音と「うるさくて我慢できなくなる寸前の最も大きな音」の範囲(可聴範囲)が狭くなります。補聴器もその範囲に調整して合わせる必要があります。補聴器の調整がうまくできても、音としては入ってきますが、歪んだりして言葉としては理解できません。これが感音難聴の一番の特徴です。この感音難聴には、他に突発性難聴、老人性難聴、騒音性・職業性難聴、メニエール病、原因不明の難聴があります。

 難聴者のほとんどの人は、以前は普通に聞こえていた時期があります。普通に話せる人が多いので、相手が話をした時に「聞こえない」と言っても、なかなか聞こえないということを理解してもらえません。聞こえないというのは外から見える障害ではないので社会生活の中では、いろいろと誤解されることがあります。

■物事をあいまいに受け入れてしまう・・・

 良く言われるのが、「話の内容が分からないのに、わかったふりをしている。わからなければ聞けばいいじゃないの」というのがあります。現実に聞こえない私達が納得できるまでとことん付き合ってくれる人は少ないです。面倒そうな顔をされるのが嫌なので、そこで遠慮してしまいます。

 聞き取れた部分だけでなんとか内容を理解しようとするので、わかったことだけをつなぎ合わせた状態で全体を把握した思い込みがあります。

 聞こえた人からすると分かったふりととらえられることが多いです。

 楽しく盛り上がっているところでは何を話しているのか聞きたいと思っても、聞くと楽しい雰囲気を中断することになるので、聞けないこともあります。雰囲気を壊しては悪いと思ってしまうのです。

 状況にあった行動がとれないということがあります。喋っていることは分かりますが、詳しい内容が分かりません。今、どういう状態で、次に何をするのか?全体の状況の把握ができないので行動できません。どうしても目で見て判断をしてしまいます。きょろきょろと見わしてしまいます。落ち着いた状態で話をしていても、きょろきょろ見わしてしまうので変に思われていないかと思ってしまいます。

■見えない障害ゆえの誤解

 聴覚障害というのは外からは見えません。車いすの人や視覚障害の人は見て分かるので、周りの人が助けてくれます。助けようという行動が出ると思うのです。ただ、聴覚障害のこの「きこえない」というのは目で見てわかる障害ではありません。2回までは聞けるけど、3回目までは聞けません。見えない障害の悲しさを感じます。

 自分らしさがなくなって、健常者との関わりが少なくなるということもいえます。これまで普通に聞こえていて、突然聞こえなくなるとこれまでの関わりが持てなくなり、コミュニケーションが取れなくなります。一歩社会に出るとたくさんのコミュニケーションがあります。そのために、逆に家から出られなくなってしまいます。

 聞かれたら対応できないから、どうしようと不安になるのです。気疲れするところもたくさんあって、しだいに社会との関わりが億劫になりやがて引きこもりがちになってしまいます。

 私たちの会の中にも引きこもりがちの方がいます。社会とのかかわりが持てなくなると、生きていく上では本当につらいものです。私も7年前に引きこもりを経験しました。でも、手話サークルに入り、要約筆記と出会い講演等に行くようになり、社会とかかわるようになりました。社会と関わらないと非常につらいことが分かります。

 障害の受容には個人差があります。聞こえないと分かっていてもそれを認めたくないのです。私は、小学校の6年くらいで聞こえにくいということが始まりました。ゆっくり聴力が落ちていって、今は障害認定をもらいました。

 認定をもらうまでは聞こえなかったのに、まだ聞こえると言って、手話の勉強などもしませんでした。今、私は「聞こえない」ということを、皆さんの前で話をしていますが、そうなるまで30年かかりました。聞こえないけど聞こえないと言えるようになるまでは難しい。これは実に個人差が大きいです。

■町内会の行事や防災訓練に参加して感じたこと

 防災訓練に参加して感じたことを話します。今年の8月30日に横須賀市社協などが主催しました災害ボランティア支援センター設置の訓練に初めて参加しました。できるだけ通訳には頼らないという思いで参加しました。わからないことがあれば、筆記をお願いすればいいと思って参加をしました。でも、実際に参加してみて、筆談する筆記用具を皆が持っている訳ではないという現実を目の当たりにしました。誰も筆記するものを用意していません。

 そうしたときに、筆記を必要とするのは自分なので、自分で用意することが必要だと痛感しました。このような当たり前のことを訓練で始めて気づきました。私は障害者の当事者なので支援を受ける立場になります。でも、体は丈夫です。なので、情報がきちんと伝われば、支援者になることもできます。そういう意味で、情報を正しく伝えてもらえると動くことができます。その点では、訓練に参加して自信を持ちました。

 町内会で防災訓練があって、これまで一人で参加したり手話通訳の方と参加したことがあります。今年は思うところがあって1人で参加しようと思って申し込みました。でも、黙ったままでは分からないと思ったので、組長を通じて「聞こえないですがそれなりに対応してもらえますか」と聞きました。良い返事が来ることを少しは期待していたが、返事は「対応できません」ということでした。残念でした。ここで勉強していると他の町内会の様子がわかります。進んでいるところもあれば進んでいないところの温度差があることを知りました。私の町内会もそういう状況なのだと思いました。あきらめずに来年、もう一回挑戦をして少しでも良い方向に進んで行くように頑張ってみようと思います。

■「伝えたい」という気持ちが伝えていくための1つの方法

 手帳を持っていない人でも聞こえない人が多くいます。今、横須賀市で聴覚障害者の手帳を持っている人の数は1257人です。現実にはお年寄りなど加齢により耳が聴こえづらくなっている人もいます。そういう人達には、筆談とかが中心になるのではないかと思いました。難聴者も高齢によるきこえにくさを抱える人達もコミュニケーション方法は同じように考えても大丈夫ではないかと思います。

 町内会の話をしましたが、私の近所には13軒あります。役員をやっていた時は要約筆記と一緒に役員会に参加しました。防災訓練には、手話通訳と一緒でした。その時は通訳の人を介してのコミュニケーションでしたので、地域の人と直接コミュニケーションをとることができませんでした。そうすると周りの人達は、通訳がいるからと皆引いてしまい第三者の立場になってしまうのです。何のための訓練かわからなくなってしまいます。

 それでは、自分のためにも、周りのためにもならないと思って先程話したように1人で行くと言ったのです。前もってそれで対応してもらおうと思ったのです。実際に周りの人に体験してほしいと思いました。皆さんが聴覚障害の人に出会った時に、聞こえないと思ったら筆記や空書、ジェスチャーなどで伝える方法はたくさんあります。筆記用具がなければ伝わらないということではないのです。お互いに伝えあいたいということが伝われば、伝わると思います。空書とは、空間に文字を書き伝えるコミュニケーションの方法です。きこえない人は相手の口の形(口話・読話)を見て内容をつかめる人が多いので、ゆっくり、はっきり話してください。身ぶりでもいいと思います。身ぶりで、さらに口で言ってもらえればわかりやすくなります。

■質疑応答

質問)

  目に見えない障害とおっしゃいましたが、耳が聞こえないということを相手に伝えるにはどうしていますか?たとえば、視覚障害の人は白杖をもっていますが、聴覚障害の人も目に見えるように、嫌かもしれませんが、ワッペンをするなどの知らせ方はあるのではないかと思いますがいかがでしょうか?

回答)

 耳が聞こえないということを相手に伝える方法ですが、「私は聞こえません」とジェスチャーで手を耳に当ててダメと手を振れば大体の人が分かります。

 目に見えるようなワッペンをということですが、情報が伝わるのは大事ですが、人によってさまざまです。気持ちの問題で「自分は聴覚障害である」と言えるまでには時間がかかる人もいます。その人が聴覚障害であることをワッペンで自ら示すことには抵抗があると思います。

3)聞こえない方へ情報を伝える体験

 これから聞こえない方に情報を伝える体験をしたいと思います。Aグループ・Bグループの2つのグループにどちらでもかまいませんので、分かれてください。

@条件の設定

 外は大雨で避難所に避難をしたという設定です。Aグループの皆さんはA避難所へ避難をしました。Bグループの皆さんはB避難所へ避難をしました。それぞれの避難所で同じ内容の放送が入ります。その放送が何を言っているのかを、それぞれのグループの皆さんが、聴覚障害の方にお伝えをしてほしいと思います。筆談にしてしまうと簡単なので、それ以外の方法で伝えてほしいと思います。

A避難所の放送内容(聴覚障害者の方へ伝える内容)

 これから避難をした皆さんに毛布をお配りしますので、A避難所の人は向かって右の担当者のところへ、B避難所の人は向かって左の担当者のところへ並んでください。

〜実際に聴覚障害の方に放送内容を伝達中〜

B体験を通じて感じたこと(Aグループ)

(聴覚障害の方が感じたこと)

・突然みんなが動き出して何かと思いました。いきなりざわざわとなって怖かったです。何を言っているのかを伝えてくれて、それから一緒に行こうとやってもらえればと思いました。服を引っ張ってくださった方もいました。でも、なぜ引っ張られたのか分かりませんでした。何かを先に伝えてほしかったです。寝るというのを体で表現して、布団の形を示してくれて、方向を示して、肩を軽くたたいて目線をやってもらえるといいかもしれません。

・グループなので当然なのですが、1人の人がまずやってみてからだと思う。皆で一気にやられても困ってしまいます。優しくやってもらえると助かります。

・身ぶりが良かったと思います。すぐに「寝る」とやって「四角いかけるもの」の身ぶりをしてくれました。そのあと、「向こう」と指でさされて。若い人が先に行って手招きをしてくれたのですぐに分かりました。

(参加者からの意見)

・聴覚障害の人で勘が良い人であれば良いかもしれないけど、そうでない人がいるかもしれない。後は口でフォローする。口話。ジェスチャーと口話を合わせる。優しく普通に自然にやってもらえれば分かると思います。

・いま、グループに分かれて取り組みをしましたが、ここに座っていて「あっ」って思ったのは、みんなが勝手に表現をしだしたことです。私は、まず、どう伝えるのかということを話し合うのかと思っていました。災害の混乱時にはそのあたりのことが重要になるのではないかと感じました。

B体験を通じて感じたこと(Bグループ)

(聴覚障害の方が感じたこと)

・Bグループでは、最初、手のひらに「毛布を配るので担当者のところに並んでください」と書いてもらったのですぐに分かりました。ジェスチャーでもやってもらいました。前ならえの要領で手を前に出して「並ぶ」とやってくれたので、分かりました。

(参加者からの意見)

・本人が優しく言ってほしいと言っていました。急にやられるとびっくりするということが分かりました。それと、1人を決めてやったほうがよかったと思います。皆でやっても本人は困ってしまうと思いました。

・まず、身ぶりでやってみましたが、今回のように配るものが毛布だけであれば、割合通じると思います。ただ、毛布以外のものが出てきたときはすごく難しい気がします。さらに、避難所などの広いところだと難しいと思います。「あそこいって並んでください」というのを身振りでやるのは不安があります。どうしたら伝えられるかを考えました。

・私は、勝手にジェスチャーをしながら毛布と口に出していました。動作をしながら話せば口を読んでくれるので、それで分かると思います。

・たまたま隣にいたので空書をしましたが、「担当者(○○さん)」という固有名詞が伝わりにくくかったです。男の人とかは簡単に指で表せるし、服が赤いというものも目印になるのではないでしょうか。

4)意見・感想等

■個人でこころがけたいこと

・ボランティアセンターの職員をしています。菅原さんがボランティアセンターの活動室を利用されているのを見かけていましたが、今日、お話を聞いて初めて聴覚障害があると知りました。今まで手話通訳をされている方だと思っていました。先に知っていればちょっと違った対応ができたのかもしれないと思いました。

・自分は手話ができませんが、顔を見て「こんにちは」という。「聞こえないから通じない」ではなく、顔を見て話をすることで伝わるものがあるのではないかと思います。

■町内会との関係

・私は町内会長を12年やっていましたが、地域にいる障害の人の存在を知りませんでした。所帯数も多いし、分からないのが現状です。災害時の基本は自助、共助、公助の理解あると思いますが、その中でもまず近隣の自助と共助の関係が大切だと思います。障害者が自助と共助の関係づくりをしていくことは大切だと感じたと同時に、どのようにすればそのような関係ができるのかを感じました。

・全体の中で、障害関係当事者として気になるのはやはり当事者に努力を求めていることです。それを出来る人は少ないのが現状です。実際に訓練に行った時など、非常に傷つくことが多いです。私はまず、その受け入れを整えてほしいと伝えています。

・例えば、菅原さんの例でいえば町内会の行事の参加を断られたわけです。地域にはいろいろな人がいます。そういう人に対してどう対応していくのか町内会で話し合うことが必要と思います。横須賀市が現在進めている「災害時要援護者支援プラン」でも、障害者がこれから嫌な思いを持ってしまうのではないかと心配しています。ただ、私は自分たちの仲間に対して、「災害要援護者支援プランには積極的に登録しましょう」ということを伝えています。

・私は定年になるまで自分の町内のことが分かりませんでした。私は町内会に入って防災活動をすると決めました。今、菅原さんの町内会活動に参加される苦労などのお話がありましたが、できるだけもっと見て欲しいし、出来るだけイベントに参加してほしいと思います。
すべての町内会を見たわけではありませんが、防災訓練は自分たちが決められたことをやるだけで精いっぱいだと思います。少なくとも私の町内会ではそのような状況です。しかしながら、つい最近の訓練で、初めて障害のある方と訓練を行いました。実際は障害のある方のグループがそこに来ていただけですが、消防署の職員は良い評価をしていました。先ほど、町内会から断られてショックだとおっしゃいましたが、ただ障害の方がいただけ、そのことが評価されているのが現状ですので、これからさまざまな町内会へ障害者の参加意識を高めるようなことが必要だと感じました。

■緊急時の障害者の対応

・同じ障害者の関係から話をします。私は息子が知的障害です。緊急時に分かってもらうために「あんしんカードをもっていましょう」と言っています。同じように聴覚障害の方で心配なのは、本人が怪我をしたりするなど、緊急時への情報伝達にあると思います。救急隊員や周りの人へ「耳が聞こえない」ということを分かったほうがやはり救出しやすいのではないかと思います。自分が伝えられないときは何か違う方法を考えた方がいいと感じました。

■要望

・ひとつだけお願いがあります。災害時に出てくると思われる言葉で、何かあれば幾つか最低限必要なものをA4の紙くらいで教えてほしいです。そういうのを言ってもらえれば、こちらでも頑張って作ろうと思います。

■感想

・県立大学の学内メールで案内がありましたので初めて参加させていただきました。テーマとは違う感想ですが、質疑応答が「わーわー」みたいなかぶせる感じで白熱しているのがすごいと思いました。大学では学生が誰も手を上げないので、盛んだと思いました。初めて見るような感じでした。

・私も、県立大学の学内メールで案内がありましたので初めて参加させていただきました。先ほどの学生と同じようなことになってしまいますが、こんなに熱い討論に初めて参加しました。自分が福祉を学ぶ意味を感じました。モチベーションがあがりました。手話サークルにも入っていますが、生の聴覚障害の人の声を聞けて良かったです。

5)おわりに〜挨拶などの簡単なコミュニケーションをとる際の手話について〜

 まず目線が大事です。視線を合わせることが大事です。そこからコミュニケーションが始まります。人差し指を揺らすことで、どうなさいましたかという意味になります。小指を顎に2回あてるのは「これでいいですか」という意味です。これはよく使うものです。それに対して「構いません、いいですよ」というのも先ほどと同じで小指を顎に2回あてるジェスチャーです。

(福)横須賀市社会福祉協議会ボランティアセンター(通称:よこすかボランティアセンター)
〒238-0041 横須賀市本町2-1 市立総合福祉会館4F
Tel:046-821-1303 Fax:046-824-8110
E-mail:shakyo-v@abox22.so-net.ne.jp

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